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大阪高等裁判所 昭和24年(を)1617号 判決

被告人

張太洙

主文

本件控訴はこれを棄却する。

当審の未決勾留日数中百二十日を本刑に算入する。

理由

弁護人鈴木正一の控訴趣意第一点について。

しかし窃取物件の價額はいわゆる罪となるべき事実にあたらないから判文上明確にすべき事項には属さないのみならず、物の價額は性質上本來絶体的正確を期し難いものであり、時、場所、人によつて大差あるを免れないから判文上記載するにあたつても單に大体の実情を窺知し得る程度で足るものと解すべきである。されば原審が西阪保治の被害届によつて被害額を認定している以上、他に特別の事情のないかぎりたとえ客観的正観性において不十分であつても右趣旨において必ずしも不当なりとは認められぬから、鑑定等の手続により認定しないからといつて所論の違法ありとはいゝ難く論旨は理由がない。

中略

同第二点について。

窃盜罪の本質は物に対する事実上の支配すなわち他人の所持を侵し、その意に反し自己の支配内に移す行爲であつて、起訴状あるいは判決における窃盜罪構成要件の記載にあたり、所有といい保管というもいずれもひとしく右事実上の支配状態を表現する語句であり、その点ではすこしも差異なく換言すれば、起訴状は西阪保治の所有する物の侵害を審判請求の対象とし判決またこれを肯定したに過ぎないから、何ら所論の違法なく論旨は理由がない。

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